君 は 少 し も
悪 く な い
第二話
― Masaki side
「…相葉さん。もう、俺らの関係やめませんか?」
二宮からそう言われたとき、俺はどう思ったんだろう。
朝から何度も思い出そうとするけど、記憶がすっぽり抜けている。
それだけショックだったんだな、ということが感じられた。
授業だって先生の話は右から入り、左へするっと出ていく。
何かそんな自分が可笑しくてクスクス笑ったら、見事に先生に指された。
「相葉、この問題解いてみろ。簡単すぎて笑ったんだろ?」
冷や汗が吹き出た。左前の席には二宮がいる。
体は前を向いていたが、目線だけはこちらにあった。
「わかりません。」
「ちゃんと聞いてろよ、そんなに笑ってる暇はないぞ。テレビの見すぎだろ。」
「…すいませーん。」
他の生徒が何人か笑った。笑いたいなら勝手に笑ってろ。
その日はものすごく不機嫌で、松本イジメにはこっそりと俺も参加していた。
と言っても、松本にジュースを買いに行かせたくらいのことなんだけれど。
「相葉くん、何してるんですか?」
案の定、二宮に叱咤を喰らった。俺は二宮を見つめ「別に。」と澄ましている。
「あの、松本イジメないでください。」
「違うよ、俺はジュース買ってきてって頼んだだけ。」
「誰の金で?」
「…松本のだけど。いいじゃん、別に。」
「パシリじゃねえかよ。」
どうして?どうしてそこまで松本を庇うんだ?俺のことは好きじゃないのか?
今までたくさんセックスしてきて、耳元で「愛してる」って囁いてくれたじゃない。
あれは…あれは嘘だったの?
「頭が痛い。ねえ、ニノ。頭痛い。」
「痛いのはこっちだよ。胃がキリキリする!」
二宮は怒ってどこかへ行ってしまった。俺が何をしたって言うんだよ…
― Jun
side
今日もいつもと変わらなかった。
ちょっと違ったのは、話したことのない相葉雅紀が俺をパシリにしたことくらい。
殴られるよりはマシかと思って言うことを聞いた。仕様がないことだ。
放課後、音楽室の近くまで来ると ベートーヴェンの『月光の曲』のピアノ伴奏が聞こえてきた。
少し胸が弾む。早足になって、音楽室へ向かう。
ドアの前に立って、少し呼吸を整える。俺はこの瞬間が一番好きだった。
「失礼しまーす。」
少し小さな声で音楽室へ入った。やっぱり。
ピアノを軽快に弾いていたのは櫻井翔。3年生の櫻井先輩だ。
大金持ちのお坊ちゃまで、俺はこの人と付き合っている。
俺は先輩の隣へ行き、椅子に座った。
「今日は早かったね。」
先輩はピアノを弾くのをやめ、俺の頬に手をあてた。
「先輩、手が冷たいですね。」
「今日は一段と冷え込むからさ。」
櫻井先輩は俺に微笑むと顔を近づけてきた。
軽くキス。それが次第に音を大きくしていく。
舌と舌が絡まって、冷え切った体は次第に熱くなっていった。
ちょっと離して、額と額をくっつけた。バカップルみたいに。
「今日、二宮君に告白されてたでしょ。」
「…え、ああ。でも俺は断りましたよ!先輩がいるし。二宮なんて何とも思わないし。」
「よく断ったね。偉い偉い。後でご褒美あげるから。」
先輩は俺の首筋に顔を疼くめ、目立つようなところに痕をたくさんつけた。
「んっ…ぁ…。」
自分でも変な声が出てるのがわかった。恥ずかしいけど、かなり嬉しい。
「先輩…っ。」
お互いに抑えきれなくなり、学校の中なのにも関わらず、愛し合った。
先輩はいつもより、何だか優しい気がした。少しだけ。
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